歌集「斎宮の風」

20141104.saikunokaze-2

 

 

君はきっと死んだことさえ分からずに

桜の闇に佇みをらむ

 

骨壺の前をウロウロ歩きゐるなぜ死んだかを

咀嚼出来ずに

 

死の際に「唖(あー)」と遺してわれは逝かむ 夫よ 

子たちよ お好きなように

 

 

◉先日、某大手出版の編集長であったF氏の奥様から渾身の力作 歌集「斎宮の風」(ながらみ書房)が送られて来た。 F氏は2010年7月に食道がんを発見された。10月に15時間に及ぶ手術した後ICUに1ヶ月。その間4日ほど意識はあったようだが62才の誕生日を迎えることなく不帰の人に。昨日十一月四日はF氏の月命日。歌のように自分が死んだことさえも自覚できなかったようだ。

 

◉そのお通夜に夫婦で参列させて頂いたが、2008年8月に肺がん4期を宣告されていたので我が身の葬儀も同時に見ているような摩訶不思議な夕べだったことを思い出した。

 

◉しかし私の場合は6年以上も元気に生きながらえている。がんの巣食う場所・大きさ・種類・転移の有無によってこんなにも違うもので、天のなせる不条理にさぞや嘆かれた事と推察できる。心の内を吐露された激情の歌の数々は、まるで散華のように宙に舞い供えた彼への鎮魂歌。さぞや彼の無念さも癒やされていることだろう。思いのままに歌い継がれて第二歌集も期待したいものだ。

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